ohgassoのLife Hack Report

雑記的に記事を投稿します

自己損傷行動のパラドックス:なぜ人間は体に悪いことを好んでするのか?

 

なぜヒトはタバコを吸い、お酒を飲み、薬物に手を出すのか?

タバコ、お酒、ドラッグなどの禁止薬物は、どれも医学的に健康によくないことが広く知られています。でも、みなさんご存じのとおり、多くの人がそれらを口にしたり、注射したり、吸引したりして摂取しています。
自らを傷つけるこうした行為は、中南米のいわゆる原始的とされる部族といわれる集団から、文化的とされる大都市の人々にまで今でも広く行われています。

また、有害薬物の摂取ではなくても、自分に危害が及ぶような“危険な行為”にのめり込む人も同様に危険に手を出しているという点では共通しているようにみえます。

ここで疑問が湧きます。
なぜヒトは有害であることを知りつつも、進んでこのような有害な薬物を摂取したり、危険な行為を行ったりするのでしょうか。
動物の世界と対比することにより、その動機について考えてみましょう。

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長い尻尾の理由

イスラエル生物学者アモツ・ザハヴィが1975年に発表した論文が興味深いので紹介します。ザハヴィいわく「動物の行動について、大きな損失や自滅的な信号が果たす役割について、雄の生存を困難にする特徴そのものが、雌を惹きつけるのだ」というのです。

どういうことかと言いますと、一部の鳥が尾羽を長くしたり、羽の色を派手に飾り立てたりすることは、逆に飛ぶことを困難にしたり、捕食者であるタカを誘い込んでしまうリスクを伴っているように見えます。
が、その分、オスがメスを誘い込む手助けになっているというのです。

例をもうひとつ。
アフリカに生息するウシ科ブラックバック族のガゼルは、ライオンに狙われた時に“ストッティング”という行為を行うことで知られています。
これは、ライオンに狙われているのを認識すると一目散に逃げ出す代わりに、脚を伸ばしたまま空中に跳び上がることを繰り返すのです。

この行為は客観的にみても大変危険で自滅的な行為であり、ライオンに襲い掛かられる時間を与える機会を作っています。
が、ストッティングを行うことにより、「自分を狙っても捕まえられない、自分は余裕で逃げ切るから時間とエネルギーを自分を捕獲することに無駄に費やしてはいけない」というメッセージを伝えている信号であると考えられているのです。

つまり、動物にとって危険をもたらすような信号は、その信号が動物に不利を強いるからこそ、そのような行為を行うにも関わらず生き延びている雄だからこそ、尻尾の長さ以外の点や足の速さに優れた遺伝子を持っているとメスから認識され、子孫を残す可能性を高めていると考えられているのです。

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危険ではあるが対価が大きい行動

高い地位を得ようと人間が行う行動にも、これらの事例があてはまると考えられる行為があります。例えば、素敵な女性に対して、高価な物を贈って口説いてみたり、スポーツカーや財産をひけらかすのも、一部の鳥にとっての”長く鮮やかに進化した羽尾”と同じことなのです。

薬物乱用も同じく、自分の地位を世間に認めさせようと多くのエネルギーを使う中で、鳥やガゼルのような無意識に誇示行動を取る本能があるのではないかとも考えられています。

もしかしたら1万年前のとある部族の若者の間には、このように危険行動や危険薬物を摂取することで、「自分はこんな危険な行為ができる実に勇敢な者だ」、「自分はいくらアルコールや薬物を摂取しても普通に生活ができるタフな男なのだ」と部族の美しい女性にアピールをしていたのではないでしょうか。

一部太平洋の部族に残っている、“バンジージャンプ”という祭りの際の儀式も、成人を迎えた男子が自己顕示のために行う行動に見えます。
また、刺青(タトゥー)なども、痛みに耐える忍耐力と感染症に対する抵抗力について屈強ぶりをアピールできる行為です。

ですが、ここで疑問です。
刺青を入れている男性を魅力的と感じる女性はどの程度いるのでしょう?
もっと言いますと、薬物を摂取しても大丈夫とアピールしている男性を、魅力的に感じるでしょうか?

短い寿命しかない動物の間では、求愛で素早く伝わる信号を発達させなければならない事情があります。が、一方で、長い寿命を与えられている人間の間では、互いの価値観を値踏みするだけの時間は充分にあります。
特に現代のように寿命が著しく伸びている場合は、かつてのような薬物の乱用や大量の喫煙・飲酒などは、配偶者や子供に幸福を与える生活を提供できるのかという点において、誤ったメッセージを送ることになりかねません。

長い尻尾やストッティングはその動物の中ではコストを上回る利益(子孫を残せることや敵から狙われにくくなるなど)が得られると考える事ができますが、人間にとっての薬物乱用などは、むしろコストを上回る利益は生まれないと考えらます。

なので、少なくとも現代社会においては、自分の遺伝子を残すことを目的としたメスに対するアピールという価値観ではすでになく、ただ単に飲酒や薬物をやめられないのは毒性化学物質に依存してしまうためで、要するに薬物中毒の状態となるためであると考えても良いようです。

トッティングや長い尻尾の羽は、鳥もガゼルも中毒で行なっていることではないことだけは念のため申し添えておきます。